配電系統地絡保護[DGR(地絡方向継電器)とEVT(接地型計器用変圧器)]

変成器・継電器

 『6.6kV配電系統(非接地系)』(←ホントは中性点超高抵抗接地系統)で適用されている地絡保護に用いる「DGR(地絡方向継電器)」と「EVT(接地型計器用変圧器)」の解説資料です。

配電系統の地絡保護は「非接地系統」であるがゆえに「コンデンサ」成分が支配的で、計算がややこしく、電流分布が複雑です。需要家側に適用されている「ZPD(零相電圧検出器)」の解説も含みます。

配電系統地絡保護の動作原理をここまでかみ砕かれた資料は無いと思いますのでぜひ参考になさってください。EVT(一般送配電事業者)とZPD(高圧需要家)の使い分けも私は知らなかったです!

なお、需要家側の地絡保護装置については次の記事にもまとめています。

ZCTに関してはこちらも鹿の骨さんの貴重な資料があります。

こちらの記事は「鹿の骨」さんにご投稿いただいた貴重な資料です。いつもありがとうございます。

DGRとEVTの話

 さて今回のお題は「DGR(方向性地絡継電器)と EVT(接地型計器用変圧器)」に関するものです。
知っている方にとっては今更の話をグダグダと書きます。

令和 鹿年 骨月 吉日
トルメキアニスタン・だ・サイタマ・ネズミーランド大学 学長 鹿の骨

 通常の地絡検出および遮断はZCT(零相変流器)OCGR(過電流動作型地絡継電器)CB(遮断器)を用います。一番判り易い例を示します。低圧接地系配電の場合です。
(交流600V以下の低圧配電は中性点又は電圧点の一点を直接接地した接地系配電です。)

図1の様に閉回路が形成され、地絡電流Igが流れZCTで検出されOCGRがメイクしてCBがトリップします。(健全時の地絡電流はゼロですが地絡時は地絡電流が流れますのでそれを地絡過電流と言っています。)

この様に接地系配電の場合は比較的理解しやすいのですが、これが非接地系配電になると途端にややこしい話になります。
日本の場合、普通高圧配電線は押しなべて非接地系配電です。厳密には高抵抗接地ですが此処では接地抵抗は無視して非接地として説明します。(後で高抵抗接地の話は出てきます。)

下に示す図2は6kV級普通高圧配電線の簡略図です。
図に示す通り普通高圧配電線は非接地系配電になっていて配線は電気的に宙に浮いています。
単純理論では地絡電流が流れませんが、実際には流れます。←重要!
その理由はこの図に書いていない要素に依るものですが、それを次ページで示します。

前ページの「この図に書いていない要素」とは対地間に発生するコンデンサ分です。
思いっ切り簡略化した図を下記に示します。
地絡はR線の途中で発生し、地絡抵抗を伴わない完全地絡とします。
対地間に発生するコンデンサのキャパシタンスを各線共通で地絡点の一次側は-jXc1 二次側は-jXc2
とします。

テブナンの定理を使ってこの図を描き直すと図4になります。
イキナリ色々なことを書きこみましたが、テブナンの定理の解説は巻末の資料に書きます。
ZCTも加筆しましたが、原理的にZCTは自身の二次側の地絡電流を拾うハズです。
今回はどんな結果になるのでしょうか?
理解を早める為に電気的に繋がっている部分を色分けしました。(青線赤線

ZCTを通過する電流を良く見ると奇妙なことに気が付きます。
Igs2とIgt2はZCTを各々2回ずつ通過していますので相殺になりますしIgr2は通過しません。

つまり「地絡点の二次側のコンデンサ分に依る地絡電流は検出出来ません。」となります。 ← 重要!
ZCTが必ずしも地絡電流の全量を検出している訳では無いことを理解して下さい。 ← 重要!2回

次の話をします。
世の中には摩訶不思議な事が起きて→ナンジャコリャ?となって→そういう事か!となるという話です。
「他人様の地絡事後で自分の所のOCGRがメイクして遮断器が落ちる」と言う事態です。
何で他所ん家の事故で俺ん家の遮断器が落ちるのか?の説明です。

図5はAB二つの需要家があってB需要家内で地絡事故が起きた場合を描いています。
これにテブナンの定理を適用して地絡電流がどの様に分布するかを次ページで解説します。

図4と同様に電気的に繋がっている部分を色分けしました。(青線赤線

この電流はA需要家のZCTを通過しますのでA需要家で地絡電流として検出されます。
OCGRの感度にも依りますがこの電流に依り継電器接点がメイクして遮断器が飛びます。

これを「もらい事故」と言います。 ← 重要
図を見ると「入って来る電流」と「出て行く電流」は違うので検出時に判断できそうに思われますが、
交流電流計測の原理としてそれは不可能です。 ← 重要2回目!
例えば100A∠±0度の電流と100A∠180度の電流は電流計で同じ「100A」として計測されるだけ
で区別が出来ません。(電流計だけでは位相が解らない。)
そこで考え出されたのが「方向性地絡継電器DGR」と言う代物です。

さてその位相をどうやって見るのかという話ですが、ある電圧を使います。
その電圧とは「零相電圧」です。
ゼロソウデンアツゥ~・・・何それ?美味しいの? と思ったアタナ!普通です。
零相電圧とは対象座標法に於ける地絡電流を流す電圧の事です。
タイショウザヒョウホウ?・・・何?・・・大正座標法なの? と思ったアナタ!普通です。
普段こんなもの用は無いのですが、こと地絡に関しては避けて通れないものです。
下記に出来るだけ解り易く(結果は保証しない!キッパリ!)説明します。

ピンクので示した部分は制限抵抗と言われる抵抗器が設置されますが、今回は省略して説明を始めます。(後でこの制限抵抗は説明します)

解っている方にとっては今更の話ですが、これを始めてご覧になる方はナンジャコリャの話です。
EVT一次側のN点は何と直接接地します。
もし二次側が普通の△結線だったら非接地では無く超高圧送電と同様な直接接地になってしまいます。
(容量0[kVA]の変圧器が本来の電源変圧器と並列運転しているものと等価になる。)

話が違うでは内科医?と思うのが普通です。
EVTの二次側はブロークンデルタ結線という結線になっていて図ではR巻線とT巻線の端子が直接繋がっていません。
本来は此処に制限抵抗という代物が併入されますが、此処では電圧計(内部抵抗=∞)だけが繋がっているものとします。(つまりこの端子間は開放と同じ。)

さてそのEVTの動作ですが、かいつまんで説明します。先ずは正常時の動作です。
正常時は単なるY-△結線の変圧器と同じです。

次はR線が完全地絡した場合です。
驚いたことにR相のR点とN点は同電位になりますのでR巻線は電圧を失います。
一方で線間電圧6600Vは変わりませんので(変われないと言った方が実情に近い)S相およびT相の対地電圧は図10の様に変化します。(専門的に言うとN点がR点まで移動すると言います。)

二次側に出る電圧は図11に示す通りですが、巻線ab間には電圧が有りませんのでf~a間の電圧計をf~b間に繋ぎ変えても電圧計の指示値は同じ値になります。つまり電圧計には図12に示す値が出ます。
実はこの値は零相電圧の3培値です。ページを遡って2ページの図4に出て来るIgを流す電圧Er(の180度反転)ですがこの値こそが零相電圧そのものです。←重要!

図12にEr(の180度反転)を書いておきますが、3倍値になっているのが理解できるでしょうか?
EVTの定格電圧が190/3Vと言う頓珍漢な値になっているのはこの様なからくりがあります。
190V≒110V×√3 です。( ← 時々アタマがこんがらがる・・・ブツブツ・・・)

さてこのEVTに出現する3倍値のVoですが、この電圧を手掛かりにすると図7に示すZCT1とZCT2に流れる電流の判別が可能になります。

さてもう一度図7に話は戻ります。
EVTから見てZCT1に流れる地絡電流はZCTから出て行く電流でZCT2に流れる電流は入って来る電流です。

何れの電流もコンデンサに流れる電流ですから進み電流ですが、それは基準電圧の零相電圧に対して出て行く方向を正方向とした場合の話です。ZCT1そのまま進み電流で良いのですが、ZCT2に流れる電流は入って来る電流になりますので位相が180度反転して遅れ電流に見えます。

この見え方でZCTの一次側の事故なのか二次側の事故なのかを判断しています。
これがDGRの動作原理です。
(胡散臭い説明でしょう!~・・・これで理解が得られれば嬉しいのですが書いている本人が首を傾げながら書いていますから、読む方に理解しろというのもねぇ~・・・ブツブツ・・・)

[管理人補足]
6kV配電系統地絡電流についてはコンデンサに流れる進み電流成分が主成分です。このため、基準となるEVT3次で得られる電圧(3倍のVo)を基準に90°進みの電流を内部方向として地絡電流はZCTに流れます。このため、DGRも基準電圧について90°進みを内部事故判定(感度角90°という)します。
超参考ですが、特別高圧(66kV以上)の抵抗接地系に使用するDGRは感度角0°です。NGRを流れる抵抗成分(位相0°)の電流が支配的なためです。基準電圧と方向に流れると内部事故判定します。

まぁ兎に角余り深く考えないで基準電圧が得られれば電流の位相が解るので電流方向が判断できるってことで納得しましょう。
続いてブロークンデルタ端子に併入された制限抵抗の解説をします。(相当に胡散臭い怪説です。)

図13はEVTの制限抵抗を復活させた図ですがこれは図14に示す回路の等価回路を得るための手段です。
普通高圧配電線は原理的には非接地系配電ですが、き線の亘長が短い場合などで地絡電流が思うように流れなかったり、対地静電容量の不足に依り配電線の対地電圧が不安定になったりするのを防止する目的で高抵抗接地を採用します。(つまり擬似的にワザワザ接地系配電にしている。)
こうすることに依りOCGRの動作に必要な充分な感度を得たり、配電線の異常電圧を防止したりしています。

つまり普通高圧配電網は完全な非接地ではありません。
制限抵抗を高圧側接地抵抗に変換する過程は省略します。
次ページにEVTカタログの抜粋を示します。

下記の写真はEVT(東芝カタログからの抜粋)です。
一次電圧6600V 二次電圧110V 三次電圧190/3Vです。

これを見てナルホドと思った人は相当に頭が良いです。普通はナンジャコリャ?になります。
定格電圧がどの端子の値を言っているのか今一良く解りません。
一次の6600VってU~V間ですか?U~O間ですか?どっちなの?
何で三次が190/3なの? 二次巻線って何に使うの?

[管理人補足]
UVWを変電所6kV母線の各UVW相に繋ぐため、U-V-W間が6600v、OがEVT1次巻線中性点になります。3次巻線は鹿の骨さんが記載してくれている零相電圧検出(190/3の変成比)に使います。
2次巻線は定常時の6kV母線電圧の監視用で、変電所送り出し母線電圧監視、変圧器のタップ制御や変電所停電検出(27リレー)などに使っています。

引用元:東芝カタログ

この様にヨーわからんEVTですが、実は普通高圧配電で設置されるのは電力会社の地域変電所の普通高圧母線だけです。
需要家内の自家用受変電設備内に設置してはイカンことになっています。
これは地絡事故時の事故点探索を電力会社は直流メガーを使って行うそうですが、需要家内にEVTが有ると素通しになってしまって絶縁抵抗を測定できないのが理由だそうです。(コイルに直流当てると素通しね!)

ですから需要家側でDGRを設置しようとすればEVT以外のものを用いてVoを検出する必要があります。
そこでアタマの良い人達が作り上げたのがZPD(ZVTが正式名称らしい?)です。
ZPDの解説は次ページで・・・

ZPDの解説です。下図参照

図15に示す様に3つのコンデンサをスターに組んでN点と大地の間にコンデンサを挟んで直接接地します。
この様にコンデンサを組むとN点と大地との間に設置したコンデンサ端子両端にゼロ相電圧が出ます。
図15は原理を書きましたが、実際には図16に示す様にコンデンサ端子と並列に
変圧器(恐らく変圧比=1:1)を介してゼロ相電圧計に接続します。高圧系との混触対策だと思います。
下記にZPDの光商工カタログの抜粋を示します。

引用元:光商工カタログ

テブナンの定理 適用手順

EVT(旧GPT)制限抵抗の二次側から一次側への変換

ネットで拾った図を貼っておきます。
これで理解しろと言われても・・・

引用元:音声付き電気技術解説講座 | 公益社団法人 日本電気技術者協会

EVT3次ベクトル図

DGRとEVTの話【PDF版】

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