第1種電気工事士技能試験では、例年1題は変流器回路の問題が出題されています。筆記試験の配線図にも出てきます。
変流器回路は、高圧回路にあまりあまりなじみのない方には理解しにくいと思いますが、ここではその回路を説明します。
変流器(CT)の基礎
変流器とは「電流を小さい値に変換して扱いやすくする」ものです。
具体的に計測回路(電流を測定する回路)で説明します。例えば、最大500Aの電流が流れる電路があるとします。この電路にどの程度電流が流れてるか測定するために電流計を接続したいとします。しかし、500Aもの電流を測定できる電流計など存在しないか存在してもかなり大規模なものになってしまいます。
そこで、変流器を用いて電流を小さくします。
例えば変流比「1000/5」の変流器を使うとします。これは、1次側に1000A流れると2次側に5A流れるという意味です。つまり変流器の1次側に500A流れたとしても、2次側では2.5Aしか流れません。すなわち2.5Aまで測定できる電流計があればよいことになります。つまり、変流器2次側回路の電流計の指示値を20倍(1000/5なので)すれば1次側の電流がわかります。
上図は計測回路を回路図にしたものです。これは単線図なので複線図に書きなおせるようにすれば電気工事士1種の変流器回路も分かるようになると思います。
なお、変流器の概要については以下へまとめていますのでご覧ください。
変流器の構造について
ここでは、実物はどんな姿をしているか、どの様に接続するのかについて学びたいと思います。
まずは実物がどのようであるからどのように接続するかを知り、そして電気工事士試験で用いられるブロック端子へ置き換えて単位問題をやるようにするのがよいと考えます。
変流器の実物は、左図のようにリング状になったコイルの中に電線を通します。で、通した電線に電流が流れるとその電線の電磁力によって変流器のコイルに電流が誘起されます。
コイルに誘起された電流が2次回路に流れます。このとき流れる電流は、変流比に応じた電流です。これは変圧器の巻数比(変圧比)にあたるものです。
電気工事士試験では、この変流器をブロック端子に置き換えて出題されますので、実物をイメージしてブロック端子へ結線してください。
変流器を使った単相回路(複線図変換)
いきなり3相回路から学ぶと難しいので、基本として単相回路から見ていきます。
単相回路だとこのような図となります。現物をイメージすることで理解が深まると思います。
注意事項があります。変流器(計器用変成器)の2次側電路には、保安用に必ず接地が必要です。また、必ず1点(1か所)接地です。2か所以上はNGです(電流がアースを伝ってCT回路以外に流れるため)。接地箇所は、変流器回路の電流の帰りの方(コモン側)ですので覚えておいてください。
電流の流れる向きについて
変圧器なども同じですが、コイルを使った電流変換をするときは、電流は必ず1次電流を打ち消すように流れます。1次側の電流は図の下に向かって流れていますが、変流器2次側回路は上に向いて流れます。そういうものだとご理解ください。この向きで継電器(リレー)の保護方向や電力量計の極性も決まりますので実務ではとても大切な知識です。
変流器を使った3相回路(複線図変換)
本題は、3相回路の複線図(3線結線図)となります。変流器の接続方法を学んでいた誰場と思います。
これは3相の電流測定回路の基本形です。変流器をスター結線です。変圧器のスター結線と同じです。
各相の電流の帰り(コモン)を短絡して返すように結線します。この結線は実務でも必ず役立ちますので必ず覚えてください。第1種電気工事士は、この結線の省略形となりますが、まずは本来のこの形を覚えてしまうことが大切です。
もう一つ注意点です。上の単相回路での中でも説明しましたが、変流器2次回路には必ず接地が必要です。これは、単相でも3相でも同じです。接地する場所も同じです。
つまり、電流の帰り(コモン)を1点接地します。これも保安のためです。
変流器を使った3相回路(複線図変換)~試験に出る形篇~
ここまで理解できていれば変流器回路は大体大丈夫だと思いますが、最後に第1種電気工事士に出題される形を学んでおきたいと思います。
以下の図が、第1種電気工事士に一番よく出題される形(高圧受電設備に使われる形)です。変流器をV結線しています。上の本来の形から言えば、真ん中の相(S相)の変流器を取り除いた形となります。
S相の変流器を取り除いたら、S相の電流(Ib)は測定できないのでは?と思われるかもわかりませんが、実は測定できてしまいます。(ここがポイントです)実は2つの相の電流を合成すると、残り1相の電流が分かる(逆向きの位相の電流)のです。右のベクトルを見ていただけば意味が分かると思います。
つまり、変流器2つで3相の電流が測定できてしまうため、経済的になることから変流器2つのV結線を高圧受電設備では使っています。
しつこいようですが、接地が必要です。場所は同様です。電技で決まっているためです。高圧との混触時の保安用となっています。
AS(電流計切換開閉器)について
近年は筆記の配線図にしか出てこない(技能では出てきていない模様)ようですが、続いて知っておきたいのが、電流計切換開閉器(AS)についてです。 この器具の設置目的を述べたいと思います。」
下図の回路は上で学んだ変流器のV結線による電流計測回路です。 この回路で3つの相の電流を知るためには3つの電流計が必要でした。
この3つの電流計を1つの電流計にできる(3相の電流を1つの電流計で測定できる)ようにしたものを「電流計切換開閉器」といいます。
Iaが知りたい時には、切換開閉器を切換えてR相へ電流計がつながるように、Icが知りたいときにはT相へつながるように・・・という風に切換えれば1つの電流計で3相測定できます。
これも、設備のスリム化のため広く用いられています。
AS(電流計切換開閉器)の仕組み
覚える必要はありませんが、仕組みはこんなイメージです。(イメージ図なので、正しい回路図ではありません。概念を理解していただければ十分です。)切換えスイッチを切換える事で、変流器2次回路の任意の相へに電流計を接続する事ができます。
仕組みまで覚える必要はありませんし、この回路図自体も私が勝手に考えて書いた図なので正確なものではありません。イメージ図だと思ってください。
ここで、知っておいていただきたいのは、ASとは、「切換えスイッチを切換える事で、変流器2次回路の任意の相へ電流計を接続する事ができる」という事だけです。A相電流測定中の図も参考記載してみます。
AS(電流計切換開閉器)の回路図
電流計切換開閉器の概要を学びました。ある程度目的・仕組みがご理解いただけたかと思います。
回路図(配線図)を紹介します。
筆記試験の時に配線図で出題されていますが「AS」となっている部分が電流計切換開閉器のマークです。上で学んだ仕組みの中身を隠してしまった感じと思えばよいです。最終的に、ASの役割だけ知っておけばよいです。
過電流継電器との組み合わせ回路
最後に、過電流継電器による短絡保護回路について学んでおきたいと思います。CT回路は電流の回路なので、変流器2次側回路に直列に接続します。こうすることで保護と計測を1つのCT回路に埋め込むことができます。
過電流継電器について少しふれておきます。その名の通り一定以上電流が流れると動作して電路を停電させる役割があります。一定以上電流が流れる=短絡事故発生時という事になります。
この回路は短絡保護回路+計測回路になっています。
継電器が2つしか設置してない事が気になると思いますが問題ありません。
短絡保護=R・S・Tのいずれか2相・もしくは3相がくっつくことを「短絡事故」と言います。上図では、R相とT相へ継電器を設置しています。このように2つ設置していれば、どの相同士が短絡しても(くっついても)どこか一つの継電器は働きます。なので、2つ継電器があれば短絡保護できます。
変流器回路の複線図(確認)
かつては技能試験にASの混じったものも出題されていたようですが、最近は出ていないのでこれを省いた形で例を挙げてみます。左図が問題です。右図は簡易複線図です。(この絵が分かりやすいと思います)
なお、電流計は、「T相へ接続」とします。
ここから下へ変流器回路の複線図を書いていきます。書き方を理解してみてください。
各パーツを記載します。
変流器はR相とT相へ設置します。
R相とT相の変流器から過電流継電器へ配線をつなぎます。変流器の「出」から繋いでください。
R相の過電流継電器の戻りの線を変流器に戻します。これでR相は完成です。
変流器への戻りの線は、コモンになるのでR相とT相をつなげます。(これでV結線にする)
T相は電流計をつなぐ必要がありますので、過電流継電器の戻りの線を変流器に戻さずに電流計の入り口に繋ぎます。(過電流継電器と電流計を直列に繋ぐ)
電流計の戻りを変流器の戻り(コモン)に戻します。この接続でT相へ電流計をつなげた計測・保護(短絡)回路の完成です。
なお、変流器は試験ではブロック端子を配布されてつなぐ(昔は本物のCTがでることがあった)ことになるのでV結線は左図のようにつなぎます。
第1種電気工事士試験【技能試験】変流器回路の出題例
実際に出題された問題を紹介します。上と同じ回路図です。上の話を踏まえれば難しくはないと思います。
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