エネルギー管理士試験の「電気分野」における難易度を管理人の感じたところで述べてみます。試験の仕組みや難易度が電験3種に近いことから、電験2.5種ともよく言われます。分かりやすい例えで、「問題の難易度」だけに着目すれば大雑把には合っているという印象を受けます。
一方で、近年は試験制度が変わってきていることから単純な難易度だけでは比較するべきでなく、さまざまな着眼点で比較することができます。
「難易度」の定義について
一般的には
「出題される問題」自体の難易度
の難易度を指していることが多いと思います。大体のサイトに解説されている難易度の定義もこれだと思いますし、昔の電験3種と比べるのであればそれでよいと思います。
令和5年度以降の電験3種と比較するならば
「合格のし易さ(試験勉強のし易さ)」に対する難易度
の視点も必要だと考えます。
この両側面から説明をします。
合格者数と合格率の比率からみるエネルギー管理士の試験難易度
エネルギー管理士は「電気分野」と「熱分野」があります。かつては別々に合格率も公表されていましたが、平成24年度からは合算値しか公表されなくなりました。このため、別々に集計されていた時代の合格率について比較してみます。
西暦 | 年度 | 電験3種 合格者数 | 電験3種 合格率 | エネ管電気 合格者数 | エネ管電気 合格率 |
---|---|---|---|---|---|
2011 | 平成23年度 | 2,674 | 5.5% | 1,176 | 21.8% |
2010 | 平成22年度 | 3,639 | 7.2% | 1,450 | 25.4% |
2009 | 平成21年度 | 4,558 | 9.6% | 1,588 | 29.7% |
2008 | 平成20年度 | 4,361 | 10.9% | 705 | 15.0% |
2007 | 平成19年度 | 3,647 | 9.0% | 981 | 22.5% |
エネルギー管理士が統一(熱+電気)で集計され始めてからの比較も載せます。
西暦 | 年度 | 電験3種 合格者数 | 電験3種 合格率 | エネ管 合格者数 | エネ管 合格率 |
---|---|---|---|---|---|
2023 | 令和5年度上期 | 4,683 | 16.60% | 3,074 | 37.80% |
2022 | 令和4年度下期 | 4,514 | 15.70% | - | - |
2022 | 令和4年度上期 | 2,793 | 8.30% | 2,636 | 33.90% |
2021 | 令和3年度 | 4,357 | 11.50% | 2,454 | 31.90% |
2020 | 令和2年度 | 3,836 | 9.80% | 2,828 | 36.70% |
2019 | 令和元年度 | 3,879 | 9.30% | 3,207 | 32.60% |
2018 | 平成30年度 | 3,918 | 9.10% | 2,770 | 27.90% |
2017 | 平成29年度 | 3,698 | 8.10% | 3,002 | 28.40% |
2016 | 平成28年度 | 3,980 | 8.50% | 2,108 | 20.10% |
2015 | 平成27年度 | 3,502 | 7.70% | 2,454 | 23.30% |
2014 | 平成26年度 | 4,102 | 8.40% | 2,280 | 21.50% |
2013 | 平成25年度 | 4,311 | 8.70% | 3,094 | 27.90% |
2012 | 平成24年度 | 2,895 | 5.90% | 2,809 | 23.30% |
それぞれの試験で制度変更もあり背景も異なるので単純な比較は難しいです。
電験3種は近年、CBT導入による易化(過去問使いまわしの開始による)が叫ばれていますが、それでも15%前後の合格率となっており、エネルギー管理士よりは合格率が低い傾向です。
受験者の総数も電験3種は5万人前後に比べてエネルギー管理士(電気分野)は4~5千人です。学生も含め大勢の人が受験する電験3種に比べて、エネルギー管理士は受験者のレベルが高いのかもしれません。
合格率から見える傾向としては、電験3種に比べてエネルギー管理士(電気分野)は必ずしも試験のレベルが電験3種より上とは言い難い状況と判断できます。
試験システムの違い
どちらも択一式、電卓使用可能(関数電卓は不可)そして課目(科目)合格制度があることや4課目(科目)など共通点が多く、この点では両者はほぼ同じです。
電験3種はCBT方式の採用(令和5年度)、試験回数が年2回(令和4年度)に変わったため、取得しやすさは電験3種の方がはるかに勝る状況になっています。
受験勉強環境の観点
受験者数が10倍程度違うため、テキストや問題集の充実具合やネット上の情報も圧倒的に電験3種が多いです。このため、明確に電験3種が優位です。周囲にも電験受験者の方がたくさんいます。
そういう意味では電験3種の方が恵まれた受験勉強の環境にあるとはっきり言えます。
課目(科目)別考察
課目Ⅰ エネルギー総合管理及び法規
電験3種の「法規」枠です。
電験3種の方が難しいのではと思います。電験3種は過去問使いまわしをしているとは言え、計算問題も電力や機械に近い問題が出題されます。
エネルギー管理士はここまで難しい計算問題は出題されません。条文も定番に近い箇所が多いですし、計算問題は似たパターンが多く出題されますので、4~5年分の過去問をおさえておくことで対応可能です。エネルギーの単位換算する計算がよく出題されます。
エネルギー管理士の課目Ⅰは最も取り組みやすい課目です。
課目Ⅱ 電気の基礎
電験3種の「理論(+機械の自動制御)」枠です。
難易度的には電験3種より簡単か同程度に感じます。
基本が理解できていれば確実に得点できます。一般的な交流計算や電磁力の問題がよくでます。2種の理論のレベルにはまったく及びません。電子回路も出題されません
自動制御はレベルが比較的高く、2種レベルに感じます。一方で、情報処理は取り組みやすく、情報系の一般知識(電験3種と同程度)で対応できると思います。
課目Ⅲ 電気設備及び機器
電験3種の「電力(+機械の定番部分)」枠です。
電験3種の知識ベースで対応できますがエネルギー管理士より計算問題が難しく感じます。電力科目の配電(異容量V結線、需要率や3相3線式などの配電方式を問う問題)や、機械科目の定番にあたる機器(直流機・誘導機・同期機・変圧器)に関する問題が出題されます。
科目Ⅳ 電力応用
電験3種の「機械(の定番以外)」枠です。
一番取り組みづらい課目と感じます。おそらく多くの人がそうだと考えます(違う?)問題そのものの難易度は電験3種並みだとは思いますが、機械科目の定番以外で一般的には詳しく勉強していないジャンルを固めています。電動力応用・電動力応用・電気加熱・電気化学・照明が出題範囲です。これに加え、電験3種では出題されない「空気調和」のジャンルもあります。
唯一の救いは、電気加熱・電気化学・照明・空気調和の4問題中2問題の選択でよいことです。選択問題の考察は以下へ詳しく書いています。
私はこの課目が一番最後まで残りました。きちんと対策すれば最終的には簡単に感じたのですが、勉強しにくいジャンルなのでそういう意味で大変でした。
エネルギー管理士と電験の同時受験について
過去から同時受験は効率がよいと言われていますが、私は一概によいとは言えないと考えています。この考察を書いていますので気になる方はご覧ください。
「出題される問題」に対する難易度
この記事の目的の1つである難易度については次の結論です。2つの試験の問題用紙を横に並べて見比べた時の問題難易度という観点です。
エネルギー管理士と電験3種の問題レベルはほぼ同じ。
(エネ管が若干レベル高め)
敢えていうなら、電験3種の方が「広く」エネ管の方が「深い」
エネルギー管理士は、電験3種より出題範囲が狭いとは言え、電験3種より内容は深く、出題範囲の体積は同じくらいではないかと考えています。
電験3種の範囲×電験3種の深さ=エネ管の試験範囲×エネ管の深さ
つまり、
「まともに勉強する場合」に必要な学習量は「同程度」
と考えます。
「合格のし易さ(試験勉強のし易さ)」に対する難易度
前述したように、エネルギー管理士は、全体的には電験3種並みの問題(電験3種を勉強していれば大体は意味が分かる)であるが、エネルギー管理士の方が難しい問題があります。
一方で、試験勉強のし易さはぜんぜん違います。
これも前述したように、電験3種は
「年2回」「CBT方式が使われている」ことに加えて、「過去問題の使いまわし」
が起きています。
こうした背景を踏まえると、従来のような「正攻法」以外に、電験3種は「過去問の出題内容に絞った」学習が効率的になっています。
「絞る」というのは、単に過去問をやるという意味ではなくて、「過去問に出たパターンだけ覚える」ことができます。1つのテーマ(例えば変圧器)に対して、過去問出題パターンだけやっておけばよいことになります。(変圧器の効率の算出方法が複数あっても他のは練習しなくてよい)
これに対して、エネルギー管理士は過去問の類題が多いものの同じ問題は出ません。きちんと毎回作られています。このため、1つのテーマに対して問われ方が変わった場合に対応できるようにきちんと理解が必要になります。
このため、
電験3種の方が、「合格のし易さははるかに勝る」
と言わざるを得まえん。
まとめ
この記事をまとめると
と結論づけることができます。
また、この記事を読んでいただいている中には、エネルギー管理士から取得しようかと考える方もいらっしゃると思いますが、
いきなりエネルギー管理士はおすすめしません。
受験勉強の環境(教材の豊富さ)の有利さに加え、資格に対するニーズの違い(電験3種が圧倒的にニーズあり)からよほどこの資格を急いで取得するという事情の無い方は電験3種からやった方がよいです。(もしくは同時受験。)
近年は電験3種もCBT化を進めているし同じ問題を使いまわし始めています。年2回開催もされています。昔より取得しやすいのは明らかです。
『問題のレベル』は同じくらい。
『合格だけに着目した取り組み方(受験勉強の方法)』は、ぜんぜん違う。
エネルギー管理士は問題そのものは3種並みですが、3種の実力を備えずにいきなり取り組むとすれば、教材の不足等からスムーズに学習が進まないと思います。
こうした理由から、まずは「電験3種」それから「エネルギー管理士」の順番で学習をしていくことでスムーズに学習が進み資格取得につながると思います。(試験は同時受験もしくは3種から)。
電験3種を取得することで自信にもつながります。
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