誘導電動機の速度制御(原理、ベクトル制御・セルビウス制御)

誘導電動機を速度制御速度制御する話(改)USO 訂正版

皆様こんにちは 今回は誘導電動機の速度制御の話を書きます。
こんな話を覚えても、実社会でどの程度役に立つのか不明ですが、知らないより知っていた方が良いと思います。何かの話のネタにでもなれば幸いです。(前回のものにUSO800が有りましたので改訂版を出します。)

平成 鹿年 骨月 吉日
貧電工附属 埼玉ドズニーランド大学(SDU)学長 鹿の骨

早速ですが籠形誘導電動機のトルク特性の話から始めます。
下図をご覧下さい。いきなりトルクの話から始めますが、「トルク=ワカンナイ」でも結構です。

この図はかなりいい加減に書いています。予めご承知おき下さい。
図を見ていくと次のような事が解ります。
始動トルクは、電動機の電源スイッチを入れた直後の状態です。
電源を入れた瞬間に、既にトルクを発生しています。

コレを始動トルクと言います。始動トルクは定格トルクの125%程度が普通です。
回転が始まり、電動機は加速しますが、停動トルク(最大トルクの事)まではそれこそ加速度的に加速します。

停動トルクは定格トルクの概ね200%程度が普通です。
やがて停動トルク発生回転数以上の回転数となり、負荷の必要としているトルクと釣り合う回転数で、回転数が一定になります。(停動トルク発生回転~同期回転までが実用になる回転数です。)

回転数が落ち着いたところで、負荷が暴れたとします。暴れると言うことは、必要とするトルクが変化すると言うことです。図ではコレを「トルク変動幅」として表現しています。

負荷の必要とするトルクが増えた場合は、回転数が落ちます。
減った場合は逆で、回転数が上がります。
この時の回転数の変化は、図を見ると解りますが、非常に狭い範囲で回転数が変わります。
言い方を変えると、誘導電動機は(ほぼ)定回転電動機と言えます。
実務上、これは都合の良い場合が多く、回転数が余り変わらない事は欠点とはならない場合が殆どです。コレを可変速にしようと言うのです。・・・結構厄介な話だと思うぞ・・・。

この余り速度の変わらない電動機の回転数を変える為にはどうすれば良いのか?

その1
極数を変える。
電動機には極数が有ります。(極数とは何かを此処では説明しません。自分で勉強してね。)
2極、4極、6極、8極、・・・32極などが有ります。
極数に応じて、同期回転数が決まっています。50Hzの場合で下記になります。
2 極:3000rpm 4極:1500rpm 6極:1000rpm 8極:750rpm・・・32極:187.5rpm
世の中には器用な電動機が有って極数を途中で変えられるものが有ります。(ポールチェンジモータと言う。)

例えば、2~4極切替電動機ですと、4極でスタートし、途中で2極に切り換えれば、低速運転と高速運転の切替が出来ます。

この方式の欠点は、速度変更が連続可変速に出来ないことです。
又、例えば2000rpmで回したい場合は、それは出来ない回転数になってしまいます。
2極機では早すぎるし、4極機では遅すぎます。中を取って3極機?そんなもの世の中に無い!。
あんまり賢いやり方じゃないようです。(実務上これで充分な場合は多い。

その2
電圧を変える。
白熱電灯は電圧を変えると明るさを連続可変に出来ます。(調光と言う。)
これと同じノリで、加える電圧を変化させたらどうなるかを考えます。
電圧を変えれば、回転数も変わるのでは無いか?
電圧を変えた場合のトルクの変化をグラフで示します。

電圧を変えた結果がコレです。(便宜上、「負荷トルク=一定」で描いています。)
早い話、使い物になりません。
電動機が発生するトルクは電圧の二乗に比例します。
電圧を90%にすれば、トルクは81%になります。(図上、青の線
たまたまですが、電圧が70%以下の場合は起動出来ません。
起動したらしたらで、どんどん加速してしまい、100%電圧時と余り代わらない速度まで回転が上がってしまいます。
コリャイカンと言うことで、電圧を下げると今度はいきなり止まります。

例えば60%まで電圧を下げると、全部の回転領域で発生トルクが負荷のトルクを下回りますので、回りません。
又、図から解るとおり、速度の変更幅は非常に狭く、速度を変えるとは言えない状態になります。
アカン、コリャ使いものにナラン。とあいなります。

因みにこの方式が全く使い物にならない訳では有りません。
家庭用の扇風機などで、この方式で連続可変速制御が成立しているものも有ります。
又、この方式を「始動器」として採用しているものも有ります。「ソフトスタータ」と言います。
通常の「全電圧始動」「スターデルタ始動」「リアクトル始動」「特種コンドルファ始動」の何れも始動は「ドッカン始動」です。ソフトスタータを使用すると、文字通りソフトな始動が可能です。
(ソフトスタータは始動時のみ有効で、速度制御には事実上使えません。)(W級の小さな電動機ではトルク特性を換えて電圧制御が出来るものも有りますが一般的ではありません。)

その3
外部抵抗を変化させる。
誘導電動機は大きく分けて二種類有ります。かご形誘導電動機よ巻線型誘導電動機です。
回転子の形状が異なるので、この様な名前が付いています。
(巻線型誘導電動機の構造は勉強して下さいね。)
この場合は、巻線型誘導電動機の外部抵抗を変化させます。かご形は適用外です。
下図を参照して下さい。

上図に示した様に、比例推移特性を使うとかなり広い範囲で速度制御を行う事が出来ます。
何でこうなるかは説明しません。(勉強して下さいね。)

外部抵抗の値を大きくしていくと、グラフが左側へシフトします。左側へシフトした時には始動トルクも変化します。ある程度まで大きくした場合は、始動トルクが大きくなります。図中、水色の線で示した場合が始動トルク最大で、停動トルクで始動出来ます。

さらに外部抵抗を大きくした場合は、茶色の線で示した様な特性になり、始動トルクは減ります。
茶色の線の様に外部抵抗値を大きくした場合、グラフが寝て来ます。これは、負荷トルクが変動した場合、速度の変化が大きくなることを示します。

つまり、狙った回転数になかなか落ち着いてくれない事になります。又、極端に遅い回転数まで速度を下げることは出来ません。(実用制御範囲は60%~100%の間。)
2極機3000rpmを300rpmで回すと言うことは多分出来ないと思います。

又、制御を細かくするためには外部抵抗器を幾つも用意する必要が有ります。
連続可変容量の抵抗器は事実上ありませんので、速度制御は連続可変にはならずやはりステップ可変になります。

抵抗器は発熱しますので、有る程度寿命が有ります。又、巻線型ですから、スリップリングとブラシは必須です。メンテナンスが結構厄介になります。どうも、塩梅が良くない方法ですが、ほんの10年前までは、この方法が結構用いられました。
今でも現役で動いているものも有ります。

その4
周波数を変える。
21世紀の現在、誘導電動機の速度制御と言えば、この方法で決まりです。電動機に印可する電源電圧の周波数を変えた場合のトルク特性を下図に示します。

図を見ると解りますが、非常に低い回転数の運転にも制御可能です。
前ページの図3と「速度制御幅」を比較して下さい。

可変周波数電源はインバータを用いますが、汎用のものですら0.2[Hz]の出力が可能です。2[Hz]じゃ無いですよ!0.2[Hz]です。同期回転数は2極機で12rpmになります。何と一秒間に0.2回転、1回転するのに5秒と言う極低速運転が可能です。

コリャスゴイ!×100倍です。

正に夢のような事が実現しました。画期的な速度制御方法の出現です。この方法が実用になると、今までの方法は「何だったのだ?」と言うことになります。この方法の最も優れている所は、巻線型では無くかご形誘導電動機で使える事です。かご形の誘導電動機も種類が色々あって、特種かご形や二重かご形などが有ります。

この制御を用いると、これらの特種なものは一切不要で、普通かご形誘導電動機が使えます。かご型誘導電動機は製造コストも安く頑丈で故障も少なく効率も良いものです。巻線型の様にブラシとスリップリングが有りませんのでメンテナンスも楽で非常に優れた電動機です。

実用制御範囲は事実上0~100%の間で、回転数は如何様にでも制御出来ます。インバータの仕様に依っては400[Hz]出力が可能なものも有りますので、商用回転以上の回転数で回す事も出来ます。

この周波数制御方式を採用するに当たっての注意事項を記載します。
周波数制御ですから、周波数を変化させます。
では印可する電圧を商用のままとして、周波数だけを変化させた場合、何が起きるでしょうか?
この場合、周波数を変えると言うことは、周波数を下げる事を指します。
電源電圧200[V]商用周波数50[Hz]の場合、1/10の5[Hz]の周波数で電圧不変、これで電動機を回したらどうなるでしょうか?
恐らく短時間の内に、電動機が焼損します。燃えます!壊れます!
原因は、励磁電流が過電流になるのが原因です。
周波数だけを下げて、電圧をそのままにしたときに、何故励磁電流が過電流になるのか説明します。
下図参照。

上図は誘導電動機のL型等価回路です。
図6は励磁回路の部分を、鉄損分を無視して描いたものです。
電圧の値が200[V]では無く115[V]になっているのは、相電圧で示したからです。(200[V]は線間電圧。)励磁サセプタンスは[S]値で示される事が多いのでそのまま描いて有ります。
サセプタンスは、リアクタンスの逆数です。

この励磁リアクタンスはωLですからこの逆数は1/ωLになります。
励磁電流を算出するのに、電圧の値をリアクタンスの値で割れば、算出出来ますが、サセプタンス値で示された場合は、電流=電圧×サセプタンス値となり、計算が楽です。
[S]は[ジーメンス]と読みます。

今回50[Hz]での値が0.1[S]のサセプタンスは、5[Hz]の時には幾つになるのでしょうか。
0.1×10倍=1.0[S]となります。(1/ωLのωが1/10になるから、値は10倍になる。)
励磁電流は電圧値とサセプタンス値との積になりますので、115[V]
115[V]×1.0[S]=115[A]となります。
つまり、周波数が1/10になったときは、電圧が不変であれば、電流値は10倍になります。
これはイカンです。マズイです。モータは焼けます。

実際には、磁気回路が磁気飽和を起こしますので、とてつもない電流になります。マズイマズイ×100倍!と言うことで、この様な事態を回避するために、周波数を下げた場合は、電圧も同時に下げます。周波数を半分にしたら、電圧も半分、1/3だったら1/3にします。

つまり、V/fの値が一定になるように制御します。(200[V]50[Hz]の場合V/f=200/50=4.00で一定。)この様な制御の仕方を「V/f(=一定値の)制御」と言います。

励磁電流が一定の値(定格励磁電流)となりますので、発生トルクは一定になります。
V/fは定トルク制御です。
良し!これでOKだぁ~・・・・オイ!旨く動かないぞぉ~・・・・何か変だ???

そうです。何かヘンなんです。周波数を下げると、V/f 制御をかけますが、トルクが一定にならず下がってしまいます。

V/f 制御は定トルク制御のハズでしたが、どうやら何かの原因で、低周波数時にトルクが落ち込んでしまうようです。次の理論を展開します。下図参照。

この様な事態が発生する原因は、等価回路をL型で考えたのが原因です。実際の回路はT型等価回路で考えないと辻褄が合わないことが有ります。今回は、正にこのパターンです。

この2つの等価回路の磁気回路部分を単純化し抽出すると下図になります。

思いっきり単純化してあります。
励磁コンダクタンス(鉄損分回路分)を無視し、一次回路のx1(漏れインダクタンス分)を無視しています。L型とT型の違いは、励磁回路の前に一次銅抵抗分のr1が有るか無いかだけです。

商用周波数50[Hz]の場合
仮に励磁電流を10[A]とし、r1を0.5[Ω]とします。L型等価回路の場合、励磁コイルに印可される電圧は115[V]がそのまま印可されます。T型の場合は、電源電圧-銅抵抗×電流の値の電圧が印加されます。

計算してみると、115-0.5×10=110[V]となります。これを知らん顔して115[V]で計算してしまうのがL型等価回路です。T型で考えた場合、電流は励磁電流以外に負荷電流も流れますので、実際にコイルに印可される電圧はもう少し下がります。

しかし、誤差の範囲と言えない事もありませんので、事実上無視して計算しても大きく問題になりません。L型で計算してもOKです。

5[Hz]の場合(商用の1/10です。)
V/f制御をかけますので、印可される電源電圧は11.5[V]です。(115[V]の1/10)。
L型で考えれば、流れる電流は10[A]で変わりません。(変えないためにV/f制御をかけている。)
T型で考えると・・・。
流れる電流は10[A]、銅抵抗で起きる電圧降下は5[V]、印可する電圧が11.5[V]だとすると、コイルに印可される電圧は11.5-5=6.5[V]となります。
コイルに印加しなければイケナイ電圧は11.5[V]です。
これが、6.5[V]しかかかりません。
つまり電圧不足になって、励磁電流が10[A]になりません。
この電圧降下を上乗せした電圧=11.5+5=16.5[V]を電源電圧としないとイケナイ事になります。
L型で計算したらアカンです。
この電圧を上乗せすることを「トルクブースト」と言います。つまり単純なV/f制御では、問題が発生します。
トルクブーストのかけ方は色々です。下図参照。ピンクの線がトルクブーストをかけた結果です。

ヤレヤレ、これでやっと動くぞ!
暫くして・・・電動機が又焼けた!タケヤブヤケタじゃあるまいし、良く焼けるモータだねぇコリャ!
コレで何台燃やしたの?どんな使い方をすると焼けるのか?概ね商用周波数の半分以下の周波数で長時間使用していたら焼けた。インバータの保護回路は働かない!電流値も異常では無い!何でこうなるの?

次の理論に行きます。
原因は電動機の冷却不足による電動機の加熱です。
一般的に電動機は「空冷」です。
空冷と言うことは、電動機に冷却フィンが付いていて、これが回転子と一緒に回ることにより、電動機の中の空気を出し入れし、電動機を冷却しています。このフィンが送る風量が問題です。通常の電動機は、商用周波数で回る事を前提として設計されています。

この商用周波数下で回った場合、数%の滑りを伴って回りますが、この回転数で回った時に充分な風量が得られるように冷却フィンは設定されています。

これが半分の周波数で回った場合、冷却風量は半分です。(多分?少し自信が無い?)一方で電動機に流れる電流は同じです。(V/f=一定制御では負荷時の電動機の電流値は変わらない。)どうして電流値が変わらないのかは自分で考えて下さいね!

この様な事態を回避する為に、インバータ専用電動機というものが有ります。冷却フィン以外に、冷却用のファンを内蔵しています。普通の電動機を、扇風機で冷やしながら回しても同じ様な効果が得られますが、確実性に欠けます。これで大概の場合、そこそこ動きます。

実は、もっと賢いやり方が有ります。
ベクトル制御」と言います。(V/f制御+トルクブーストでは無いやり方です。)
今までは、負荷トルク=一定で説明して来ました。

しかし、世の中の負荷は色々あります。装置が100種類有ったら、トルク特性は100種類だと言っても良いと思います。この色々な負荷に対して、V/f制御だけで対応するのは少し無理が有ります。(それでも、外部抵抗制御などに比べれば100倍は良いと思うぞ!)
負荷を大きく分類すると下図のようになります。

図11は色々な負荷の種類を簡単に描いたものです。
この負荷パターンの負荷に速度制御をかける場合、V/f=一定制御だけだと、都合が悪いことが有ります。例えば、二乗逓減負荷の場合、V/f制御だけですと、加速途中のトルクが出過ぎます。

因みにV/f制御をかけると、「定トルク制御」になりますが、二乗逓減負荷では都合が悪いことになります。欲しいトルク特性は始めチョロチョロ、中そこそこ、最後パッパのトルクが欲しいのです。

これを何とかしたい、さて、どうするか?
アッサテッアッサテッアサテサテサテサテ、サテハナンキンタマスダレ <==少し壊れた
うゥ~ン・・・壊れたヤツはホッタラカシにして次に行こう!

下図は誘導電動機に流れる電流を非常に簡略して表したベクトル図です。

この図を見ると解りますが、電動機の一次巻線には「励磁電流」と「負荷電流」両方が流れています。
インバータから見ると、基準となる電圧は自分で作った電圧ですから、当然インバータに認識させる事が出来ます。

電流も、CTなど使えばどの程度流れて入るかを認識させることが出来ます。
この電流と電圧の位相角を検出出来れば、電流を「励磁電流」と「負荷電流」に分解して認識させることが出来ます。

コレを、今のベクトル制御インバータは行っています。負荷のトルク特性に応じて、ある周波数である電圧を印加したときに流れる電流が異なります。

「逓減トルク特性」「定トルク特性」「定出力特性」の負荷では負荷電流が全く違う値になります。インバータは「電流をベクトル解析しながら動作する」という離れ技をやっています。ですから、この様な制御手法を「ベクトル制御」と言います。

このベクトル制御のロジックは複雑怪奇で、トテモジャありませんが小生の手には負えません。しかし、最も進んだロジックを使うと、非常に高い精度で回転数を制御出来るのだそうです。


さすがに狙った回転数±1rpm の精度と言うわけにはいかないと思いますが、滑りを伴って回っている回転子の実回転数を、インバーター側で認識するところまで来ているそうです。回転数の検出に、電動機に設置した回転計からのフィードバックをかければ、比較的簡単に制御出来ると思いますが、コレをやらないで実回転数を言い当てる技術があるそうです。

もう此処まで来ると、ナンジャコリャの世界です。これ以上は解りません。
これで終わりか???・・・・実は未だある!
げぇ~・・・

その5
回転子に電圧を印加して回転数を制御する。
セルビウス制御と言います。コレも訳の解らない方式です。
正直申し上げて、完全に解説出来る自信は有りません。
この方式は、その3で説明した外部抵抗制御の変形と解釈する事が出来ます。
説明に入る前に下記の回路を見て下さい。

この2つの回路は「電気的に等価」と言えます。
加える電圧が同じで、流れる電流も同じです。従って、等価であると言えます。
下図は、外部抵抗制御をかけた場合のL型等価回路です。

13図の等価回路の考え方を応用して図中赤で描いた外部抵抗器の代わりに電圧源を挿入します。
下図のようになります。

この2つの回路は電気的に等価と言えます。
従って、二次回路に電圧源を印可すると、外部抵抗を接続した場合と同様の制御を行うことが出来ます。トルク特性は3ページ図3に示したトルク特性と同等の特性を得ることが出来ます。

勿論、この場合の電動機は巻線型であることが前提です。籠形ではこんな事は出来ません。又、印可する二次電圧の極性を逆にする事も出来ます。この場合何が起きるのでしょうか?下図をご覧下さい。

何やら怪しげな回路です。
A図は接続する抵抗が負の値です。
勿論世の中に負の値を持つ抵抗など存在しませんが、考えるのは自由です。A図及びB図は印可する電圧(10[V])が同じで、流れる電流(10[A])が同じなので、やはり等価であると言えます。

つまり、二次電圧の印加極性を逆にすれば、負の値を持つ抵抗を接続したものと等価に出来ます。この様に、負の値を持つ抵抗値を挿入したのと等価の効果を得られる場合のトルク特性を次ページに示しま
す。

下図の図17は図15とは二次側に加える電圧の極性が逆です。

外部抵抗制御ではグラフは左側にしかシフトしませんでしたが、今回は左側にも右側にもシフト出来ます。又、外部抵抗制御では、外部抵抗が消費する電力が全くの無駄となり、効率の低下を招いていました。このセルビウス制御を行うと、この外部抵抗が消費していた無駄電力を、電源側に回生することが可能になり、省エネになります。

インバータ制御が実用になった現在、この方式の存在意義が問われますが、インバータ制御との棲み分けは次のようになっているようです。

インバータ制御は概ね500kW程度の電動機までで、電圧は400V級まで。。コレを超える大型機などにはセルビウス制御が用いられる。インバータは汎用容量までは万能だと思いますが、当たり前の話として110kWの電動機でしたら、110kW用のインバータが必要です。
インバータの効率も当然100%ではありません。

ですから出力2000kW等になった場合、インバータの損失が無視出来なくなります。また、その様な超大型インバータは特注になります。(第一そんなものが世の中に有るのか?)

一方セルビウス制御は、電動機の容量の割には装置が大きくならず、比較的コンパクトに出来るそうです。此処いら辺のさじ加減は良く解りません。

オシマイ

次項におまけがあります。

図を見ると解りますが、商用周波数直送のグラフが左に平行にずれて行く特性になります。この場合各周波数に於いて同期回転数ではトルクはゼロです。

商用が50Hzとすれば80%時は40Hzですが、40Hz電源の2極機で2400rpmで回った時はトルクがゼロと言う意味です。停動トルクはトルク特性が左に平行移動しますから、停動トルクの発生する回転数は変化します。停動トルク発生回転数は「滑り%=一定」では無く「滑り回転数rpm=一定、滑り周波数Hz=一定」で推移します。

仮に商用時に停動トルク発生滑りが40%とすると滑り回転は2極機で1200rpmになります。この1200rpmが一定になりますので80%周波数の場合は1200rpm÷2400rpm=滑り50%が停動トルク発生の滑り%です。40%周波数時には同期回転数が1200rpmですから始動トルク(滑り=100%の時)が停動トルクになります。ややこしい計算ですが確実に理解して下さい。

始動トルクは図の様に周波数に応じて変化します。概ね周波数が下がれば始動トルクが大きくなりますが一定周波数以下では逆に小さくなります。始動トルクが定格トルクになる周波数以下の周波数ですと V/f=一定制御の場合、始動トルクが定格トルクより小さな値になります。定格トルクの発生する回転数及び滑りは滑り周波数=一定、或いは滑り回転数=一定で推移します。

仮に定格滑りを5%とすると滑り周波数=50Hz×5%=2.5Hzになります。周波数を2.5Hzにした時は始動トルクと定格トルクが等しくなり定格トルク発生時の滑りは100%となります。

定トルク負荷に接続した場合の様子を周波数制御図100と外部抵抗制御図101の場合で書いています。
一番の違いは制御出来る回転数の巾が大きく異なる事です。外部抵抗制御の場合は連続変速は不可能で段付き変速になりますし、制御出来る回転巾も 0~100%と言う事は出来ません。特に低い周波数領域は動作が不安定で回転数がトルクの変動で大きく変化します。一方のインバータを使った可変周波数制御はこの様な事が有りません。

制御出来る回転数の巾も広がりますし、低い周波数でも安定的に動作します。
安定的に動作すると言っても限度は有ります。図100の一番左の黒い線で書いたトルク特性は始動トルクが定格トルクになるまで周波数を下げた場合の特性ですが、これ以下にトルク特性を左側に振ると始動トルクが非常に細くなり始動出来なくなります。数ヘルツ以下の非常に低い周波数領域での話です。殆ど直流に近いような周波数ですが、この領域でも安定的に動作するように最近のインバータは出来ています。どうやってトルク不足を解決したのかは解りません。

多分ベクトル制御をこねくり回して色々やっていると思いますが詳細は不明です。
悪しからず。

誘導電動機を速度制御速度制御する話(改)【PDF版】

コメント

タイトルとURLをコピーしました