負荷時タップ切換器付変圧器(LRT)とは?役割,構造・原理(タップチェンジャー)

 配電用変電所などで、『停電を伴うことなく』負荷に応じて2次側電圧を一定に保つことができる変圧器『負荷時タップ切換器付変圧器(LRT)』について役割や構造・仕組みについて説明します。

負荷時タップ切換器付変圧器(LRT)とは

 負荷時タップ切換器付変圧器はLRT(load ratio control transfomer)ともいい、配電用変電所へ設置される配電用変圧器等で広く使われており、タップを切り換えて巻数比を変えることで電圧調整ができる仕組みを採用した変圧器です。

この「負荷時タップ切換器」とは、JECに次のように定義されています。

変圧器が励磁されている状態または負荷をかけた状態で巻線のタップを切換える装置。主として切換開閉器,タップ選択器(極性切換器または転位切換器を含む)および限流インピーダンスから構成される。

引用元:JEC-2220 負荷時タップ切換装置

負荷時タップ切換器付変圧器(LRT)の設置目的・役割

 負荷時タップ切換器付変圧器(LRT)の設置目的を配電用変電所の変圧器を例に説明します。次の図はごく一般的な配電用変電所と配電系統のごくごく一般的な簡易図です。この項では、図にある「配電用変圧器」に着目して説明します。

 配電用変電所にある配電線へ電気を供給する変圧器を配電用変圧器(以下、「配変」という)は、電圧を降圧する以外にも

「送電電圧を適正に保つ」

という重要な役割を担います。

一般的に、配変1次側母線が一定でも負荷電流が増えるほど2次側電圧は下がります。

また、各家庭に届く100vや200vの配電電圧は、電気事業法により

・100v→101±6v
・200v→202±20v

の電圧を維持しなければならないと定められています。

そこで、配電用変圧器へ

『負荷時タップ切換器』

という装置を取り付けることで、負荷電流が流れた状態のまま変圧器の巻数比を変化させる(=選択する巻数比をタップという)ことができる機能を備え、変電所の送り出し電圧を一定に維持しています。

変圧器の巻数比と2次側電圧の関係

 負荷時タップ切換器の概念は単純な変圧器と違うので初歩的な部分からおさらいしながら解説します。

巻数比に対する2次側電圧の関係

 次の図で、単純な「単相変圧器」における巻数比の関係図を示します。なお、分かりやすく考えるため、変圧器は「理想変圧器(=内部インピーダンスを無視)」として考えます。

巻数比の「巻数」というのは

「巻数」=鉄心に巻いたコイルの巻数
(1次と2次の巻数の比と同じ比率で電圧が変圧される)

ここで、簡単な例として巻数比の違う3つの単相変圧器を示します。

理想変圧器Aであれば、1次巻線に2000回、2次巻線に500回コイルが巻いてあり、「1次巻線の1/4倍された電圧が2次側に出てくる」と単純に考えることができます。

1つ前提として、

1次電圧1000v一定

とした時に、次に示す理想変圧器3台の2次側電圧を見てみます。

1次電圧:1000v一定
・理想変圧器A(巻数比4)の2次側電圧:250v
・理想変圧器B(巻数比3)の2次側電圧:333v
・理想変圧器C(巻数比2)の2次側電圧:500v

ここで1つの結論が分かります。

巻数比が小さくなる(=1次巻線の巻数が少なくなる)と2次側電圧が上がる。

負荷時タップ切換器の簡単な構造

前述の内容を踏まえた上で、次の絵を見てください。
ここには「負荷時タップ切換器」の超簡単なイメージ図を示しています。

前述では巻数比の違う3つの変圧器を描きましたが、今度は1つの変圧器の1次巻線をところどころ抜き出して端子に出しています。この入力端子を引き出すことで変圧器の入力電圧を任意のポイント(=タップ)1~6を選べるようになっています。

タップ1を選択 0-1間に電圧入力:最も巻数比が大きい:2次側電圧が最も小さい
タップ6を選択 0-6間に電圧入力:最も巻数比が小さい:2次側電圧が最も大きい

ということができます。

この仕組みが超簡単な「負荷時タップ切換器」の構造と仕組みです。この絵では負荷がつながったまま入力電圧端子を切り換えると一時的に負荷が停電してしまうので、負荷が停電しない仕組みが必要です。

理想変圧器ではない場合

 例示した理想変圧器はインピーダンスを無視していますが、次に示す回路が本当の変圧器の等価回路です。内部インピーダンスがありますので、

入力電圧に対して2次側に出てくる電圧は内部インピーダンスでの電圧降下の影響

を受けることになります。

詳しい説明は本題とずれるので割愛しますが、

変圧器内部インピーダンスの影響で
変圧器の1次電圧は一定でも負荷電流の大きさに応じて
出力電圧は変化する。

となります。

負荷時タップ切換器の構造

 ここから本題に入ります。

負荷時タップ切換器を構成する装置

負荷時タップ切換器は、次の4つの装置により構成されています。

  • 切換開閉器・・・・・・限流インピーダンスと組み合わせて使用され,タップ選択器によってすでに選択された回路の電流を一定の順序で開閉しながら移し換える装置。
  • タップ選択器・・・・・通電能力をもち,かつ無電流状態でタップを選択する装置。
  • 転位切換器・・・・・・通電能力をもち,かつ無電流状態でタップ巻線が主巻線に接続される位置を切換る装置。
  • 限流インピーダンス・・・タップ切換の際,二つのタップが橋絡された時に流れる循環電流を制限するリアクトルまたは抵抗器。前者を限流リアクトル,後者を限流抵抗器という。

これらを組み合わせた「タップ1」の回路図を示します。

負荷時タップ切換装置は、

変圧器1次側の巻数を変更する事によって巻数比を変え,2次側電圧を任意に変更可能。停電させずタップを変える事が可能。

上に示す図は変圧器1相分を抜き出したもの。 変圧器1相分の主巻線のほかに,転位巻線 タップ巻線があり,これらの巻線をうまく使って電圧を調整する。
具体的な各部の働きを次に説明する。

転位切換器

転位巻線を「使うか・使わないか」を切り換える。

使う巻線を

・「タップ巻線+転位巻線」
・「タップ巻線のみ」

いずれかを切り換えている。

タップ選択器

タップ巻線のコイルの使用する部分を段階的に選択して細かく巻数をかえる。

タップ選択器には奇数を切り換える部分偶数を切り換える部分と2つの切換器がある。

切換開閉器

タップ選択器の

 ・奇数側
 ・偶数側

のどちらを使うか切換える。

この装置のおかげで負荷がかかっていてもタップを切り換えられる
動きの詳細を以下に示す。

負荷時タップ切換器によるタップ切換手順

具体的なタップの切換手順を示す。

(1)タップ「1」→「2」への切換え
  ①切換開閉器を偶数側に切換る。

(2)タップ「2」→「3」への切換え
  ①タップ選択器奇数側を動かす(「1」→「3」)
  ②切換開閉器を奇数側に切換る。

(3)タップ「12」→「13」への切換え
  ①タップ選択器奇数側を動かす(「11」→「1」)
  ②転位切換器を「-」側に切換る。
  ③切換開閉器を奇数側に切換る。
   ※こうして転位巻線を使わないようにして
    再びタップ選択器の「1」から使う。

(4)タップ「13」→「12」への切換え
  ①切換開閉器を偶数側に切換る。

(5)タップ「12」→「11」への切換え
  ①タップ選択器奇数側を動かす(「1」→「11」)
  ②転位切換器を「+」側に切換る。
  ③切換開閉器を奇数側に切換る。

以上のことから転位切換器が動作する点は
 ・昇圧時→「12」から「13」の時
 ・降圧時→「12」から「11」の時
であり昇圧時と降圧時の動作する点は異なることが分かる。

負荷時タップ切換器付変圧器(LRT)の銘板

負荷時タップ切換器付変圧器(LRT)の銘板を紹介します。上に記載した構造を見て変圧器銘板を見ると構造がイメージしやすいと思います。

1次側でタップを切り換える理由

 古い変圧器は2次側でタップ切換をするものもありましたが、現在は1次側が主流です。

理由は

1次側の方が電流が少ないから

です。

負荷電流が流れている状態で回路切換を行いますので、減流インピーダンスがあるとは言え、なるべく電流が少ないことが望ましいです。このため、電流が少ない(=電圧が高い1次側)でタップを切り換えます。

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