変圧器(トランス)の利用率とは(V結線で86.6%)

電気機器

 変圧器の利用率とは、変圧器の容量に対して実際に取れる負荷の割合(能力に対してどのくらいまで使えるか)を表すものです。V結線の場合には、Pの出力×2台(=2P)の変圧器で得られる出力は√3Pとなり、√3/2(=86.6%)までの出力しか得られません。この理由の説明となります。

 電験1種の2次試験で利用率の算出方法を問われたこともありました。

トランスの利用率の話

トランスの利用率の話をします。
この書き込みをお読みの方は、トランスの容量が下記の様に示される事はご存じだと思います。
(ご存じでない方は、下図を見て納得して下さい。)

単相2線式トランスの容量をP[VA]とすれば、単相負荷はP[VA]接続できます。
この単相トランスを3台組み合わせて三相トランスとした場合、当然三相容量は3P[VA]接続出来ます。この単相トランスを2台使って、V結線にした場合、トランス容量は2P[VA]ですが、接続可能な三相容量は√3P[VA]になります。2P[VA]では有りません。
何故か?・・・という話です。

次ページ以降に下記の3種類の結線に依る、トランスの利用率の解説を記載します。
解説には下記の公式を使用しますので、覚えておいて下さい。

三相容量(VA値)=√3×線間電圧(V値)×線電流(A値)

さて、V結線の場合です。
回路図は上記の通りです。少し丁寧に書きました。
電圧関係は次のようになります。
巻線電圧は巻線RS及びSTとも同じ値でE[V]です。(値はスカラー値で記載。)
線間電圧(RS間)は巻線電圧RSがそのまま出現しますのでE[V]です。
線間電圧(ST間)も同様に巻線電圧STがそのまま出現しますのでE[V]です。
線間電圧(TR間)は巻線電圧RS及びSTに依り電圧が発生します。
発生した電圧は同じE[V]になります。
つまり線間電圧は全て同じ値でE[V]になります。

電流関係は次のようになります。
R線電流はRS巻線電流がそのまま流れますのでI[A]です。
S線電流はベクトル式で表すとIst(ドット)-Irs(ドット) になりますが、値はやはりI[A]になります。T線電流はST巻線電流の180°位相が反転した電流ですが値は同じI[A]です。
つまり線電流は全て同じ値でI[A]になります。

これを公式に当てはめます。

三相容量(VA値)=√3×線間電圧(V値)×線電流(A値)
=√3×E×I
=√3EI

上記の式に於いて、線電流=巻線電流ですから、巻線電流をI[A]としているのでこの様な式になります。(√3は1回しか出てきません。)

単相トランス1基の容量PはE×Iで計算されますので、上記の容量は下記の様に計算されます。
三相容量(VA値)=√3EI=√3P
つまり単基容量P[VA]の単相トランス2台を使っても、供給可能な容量は2倍にはなりません。√3倍になるだけです。

トランスの使用率の計算は下記の式で行います。
トランスの使用率=供給可能容量÷トランス合計容量
=√3P÷2P
=√3÷2
=86.6%

【宿題】

下図のような線間電圧がE[V]、容量3P[VA]の三相トランスがある。
(容量P[VA]の単相トランス×3基と等価。)
トランスのRS間のみに単相負荷を接続した。
各々の場合で、供給可能な単相容量は幾つになるか計算しなさい。

【宿題の解答】

変な問題の出し方をしてしまったかも知れません。
余り細かいことは気にしないで、下記の様になると思って下さい。

【スター結線の場合】

TN巻線は遊びですから、撤去します。
又、各相の巻線はP[kVA]の単相トランスと等価になります。
は電流I[A]を表します。下図参照。

図を見ると解るのですが、巻線電流と線電流は同じ電流になります。
この電流I[A]がトランスの容量を超えなければ良いことになります。
単相トランス1基の容量はP[VA]でした。
従って、P[VA]=(E/√3)[V]×I[A]の関係になっていますので、
I[A] =√3×P[VA]/E[V]となります。
単相トランスの端子間電圧にご注意下さい。
線間電圧はE[V]ですが、端子間電圧(RN間)はE/√3)[V]です。
これで、流せる電流の上限値が求まりました。
ここで接続可能な単相容量を求めると次の様になります。
接続可能単相容量=線間電圧×流せる電流の上限値
=E×√3×P/E[VA]
=√3×P[VA]

この時のトランスの利用率を計算して見ましょう。
利用率=供給可能容量÷トランス容量×100%
√3×P[VA]÷3P[VA]×100%
√3÷3×100%
57.7%
となります。

三相トランス容量が100kVAの場合は57.7kVAまで、
300kVAの場合は173.2kVAまでになります。

丼勘定で計算すると三相トランス容量の半分が接続可能単相容量になります。

【デルタ結線の場合】

こんどはデルタの場合です。
下図のように回路を2つに分けて考えます。
この様な考え方を重ねの理と言います。

A図及びB図とも共通では電流を示します。

A図から解析します。
直感的に解って頂けると思いますが、供給可能容量はP[VA]です。
巻線RSの容量がP[VA]ですから、これがそのまま供給可能容量になります。
流しても良い。電流値は巻線RSの定格電流I[A]そのものです。

次はB図です。
端子RS間には巻線がありませんが、巻線ST及びTRに依って、RS間には電圧E[V]が発生します。回路図を見ると解るのですが、流れる電流は巻線ST及びTRを等しく通過していきます。
従って、流して良い電流はこの巻線の定格電流I[A]になります。
ですから、供給可能容量はやはりP[VA]になります。

合計でP[VA]×2倍の容量が供給可能です。 <==というのは実は嘘。なんで?どうして?

前ページの考え方は、基本的には正解です。
しかし、理論として不完全です。不足しているとも言えます。
不足している部分とはトランスの持つインピーダンスを考慮していない事です。
下記の回路の●はインピーダンスを示します。
各トランスの特性は揃っていますので、同じ大きさのインピーダンスがあります。

A図ではインピーダンス●は1つです。
従って、定格電流を流した時にRS間に現れる電圧は、E[V]-ΔE[V]となります。
ΔE[V]は非常に小さな値ですが、確実に電圧は落ちます。

B図は●が2個直列に繋がっています。
従って、同じ電流を流したら、電圧降下ΔVは2倍になります。
ところが、RS間の電圧は電圧降下が起きた後でも同じ電圧になっていなければ、この重ねの理は成立しません。

つまりB図の回路にはI/2[A]しか流せません。
従って、供給可能容量は
A図でP[VA],B図でP/2[VA],合計で1.5倍のP[VA]になります。

つまり、供給可能容量は三相容量の半分です。
従って、トランスの利用率は50%になります。

トランスの利用率の話【PDF版】

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