第1種電気工事士の中で配線図問題はとっつきにくく、分かりやすいものではありません。特に実務に携わっていない方(高校時代に受験した私も苦しみました)は難しいと思います。受電設備の構成・機器の流れ・保護回路や計測回路の構成を一つ一つ簡単に説明します。図面の見方や構成を理解することで問題に取り掛かりやすくなると思います。
第1種電気工事士に出題される配線図(高圧受電設備)
第1種電気工事試験では次に示すような高圧受電設備の配線図が出題されます。この図の意味がある程度分かって意味が分かるようにすることをこの記事の目的とします。この図は暗記する必要がありますが、ある程度体系だって意味を抑えて理解をすることで単なる暗記とならないようになっていただければと思います。
配線図と実物の対比
いきなり図面を見るとイメージしづらいので、現物を知って対比することでイメージを膨らませることができます。まずは対比してみてください。あとから戻って見ることで理解が深まると思います。
同じ色のところが同じ部分です。配線図のほとんどはキュービクルに入っていますが、GR付PASは外側(電柱の上)についています。GR付PASの外側が一般送配電事業者との責任分界点になります。
(GR付PASは後述します)
主要機器の構成(主回路)
一度にすべてを見てしまうと分かりづらいので、分けて説明します。 ここでは、電気を受電する主要な機器のみの回路(主回路)のみを抜き出します。
標準的な受電設備の主要機器は下図の通りで、電気工事士に出題される配線図の主なものもほとんどこの形です。したがって、主要設備の回路構成・図記号・設置目的などが理解できればざっくりと配線図が読めるようになると思います。
なお、この主回路を構成する機器があれば大雑把に言えば電気は受電できます。この設備に「何かあった時(=事故があった時)に事故を切り離す回路」や「今どの程度電力を使っているか確認する回路」を付けた形で高圧受電設備は形成されています。
気中負荷開閉器(PAS)
一般送配電事業者との区分の箇所へ付けられます。電路の開閉が可能です。また、受電設備構内で地絡事故発生時には、地絡方向継電器の動作により、気中負荷開閉器を開放して地絡事故を除去」します。
「短絡電流」は切ることができません。(大電流を切る能力はない。負荷電流は切れる)
断路器(DS)
遮断器と違い電流は切れないので、単に電路を開放するために使います。電路からの断路用途に使います。そのため、断路器の開閉は、遮断器を切って電流の流れていない時しかできません。活躍の場として遮断器の点検をする時などは、断路器を切って電気の流入を防いだ上で行います。まず、遮断器を切って、電流が流れない状態で断路器を開放することで電路を切り離して停電範囲を確保するような使い方となります。
遮断器(CB)
電気を入切するスイッチです。主に電気を切るのが仕事です。受電設備を停電させる時に切る、もしくは事故(短絡)の時に停電させる時に用います。特に短絡事故時は大電流が流れるため、早急に遮断器によって遮断しないと火災や設備損壊につながります。事故発生時には保護継電器が動作してその遮断指令で遮断器を開放します。通常時は運転員の操作により開放したり投入したりします。受電設備で変圧器とならぶ超主要機器となります。
避雷器(LA)
雷等の過大な異常電圧が侵入したときに自ら放電(大地と接続)し、他の機器を保護します。その能力を十分発揮させるため、接地部分の抵抗が十分低い必要があり、A種接地工事が必要。普段は大地に対して高い絶縁を保っています。雷の侵入により、バーッと電位が上がると放電して機器を保護するイメージです。
変圧器(TR)
受電した高電圧(6600V)を、使用する400V・200V・100V等へ降圧して負荷へ電力を供給する設備。受電設備の一番の主役といっても過言ではない設備です。
高圧カットアウト(PC)
ヒューズ付の断路器のようなものです。先に説明した断路器のように、変圧器1台だけ停電して点検したい場合にはPCを開放して停電できます。また、ヒューズが付いているので、変圧器1台に短絡が生じた場合はそのヒューズが切れる事によって当該変圧器だけが電路から遮断され、保護することができます。遮断器にしないのは、遮断器が高価なため。
直列リアクトル
電力用コンデンサと直列に接続する。これにより、コンデンサより流出する高調波の抑制・コンデンサ投入時の突入電流を抑制するといった効果がある。
電力用コンデンサ(SC)
受電した母線へ接続する。これを接続すると、負荷の遅れ無効電力を補償し(コンデンサは進み無効電力なので)全体の力率を改善することができます。力率が一定以上になると電気代が安くなる取扱があると思います。近年は電力用コンデンサが需要家に投入されすぎて困った状態にもなっているようなので、状況が過去と多少違うかもしれません。また、受電母線の電圧を高くする働きもあります。
計測回路・保護回路の構成
先に説明した受電設備の主要機器とは別に、受電設備には、電流や電圧を測る「計測回路」、短絡・地絡の保護をする「保護回路」があります。これらは、特に初学者には理解しにくく(実務に携わってないと)配線図を余計に難しくしています。
これらを主要回路とは別に考えて、配線図の内容を理解する事ができると思います。
計測回路について
【電力量(WH)回路】
電力会社から受電した電力量を計量します。電気代清算に使用。各家庭にあるものと同じイメージです。近年は、太陽光連係等で売電用と買電用(受給用と需給用)の2つあることもあります。
高圧受電設備は、6600Vの高圧で大電流であることから変成器を取り付け、小さな電圧・電流に変換して電力量計で計量します。VCTは、計器用変圧器と変流器が内蔵されています。
<電圧計測回路>
電圧計を主回路に直接接続できないため、計器用変圧器で降圧して電圧計で測定します。
<電流計測回路>
電流計を主回路に直接接続できないため、変流器で電流を小さくして電流計で測定します。
<電力計・力率計接続回路>
電力や力率の測定には電圧・電流が必要なため、各変成器2次側を接続します。
保護回路について
<短絡保護回路>
短絡事故時の大電流をOCRにて検出し、遮断器に遮断指令を出して事故除去します(詳しくは→変流器)
過電流継電器は電流のみで動作するため、電流のみ繋ぎます。過電流継電器は、「一定以上の電流が流れた事で動作する」ので、短絡時の電流を予め計算しておいて、短絡事故時に確実に動作するよう設定(整定といいます)しておきます。
<地絡事故時の保護回路>
GR付PASにより保護します。零相変流器の仕組みは(→零相変流器)参照。普段はZCTの2次側には電流が流れていません。ZPDの2次に電圧もありません。地絡事故発生時に主回路に地絡電流が流れ、ZCT2次の零相電流・ZPD2次の零相電圧の発生によりDGRが動作します。そのためDGRには、零相変流器・計器用変圧器と接続されます。
なお、DGRに「零相電圧」を接続するのは、電圧を基準にした電流の向きを確認してDGRが動作するためで、受電設備構内向けの事故時のみ動作します。配電線側(送配電事業者設備向け)に地絡が起きても動作しません。
地絡過電圧装置付高圧交流負荷開閉器(GR付PAS)の役割
第1種電気工事士筆記試験に写真付きで以下の問題がありますので引用します。以下の写真にあるような装置が引き込み柱の柱上に設置されていて、地絡保護しています。ついでに問題解説します。
イ(正しい)
ロ:(正しい)
ハ:誤り
GR付PASは「短絡保護」はできません。短絡電流を切る能力がないからです。そのため、短絡を検出する継電器も付いていません。(OCR未設置)GR付PASの役割ではありません。
ニ:正しい
詳しくは次の記事で解説しています。
主回路・計測回路・保護回路を組み合わせた配線図
再確認の意味ですべてを合わせた配線図を見てみます。
①地絡継電装置付高圧交流負荷開閉器(GR付PAS)
送配電事業者との分界点のすぐ手前に設置してあり、電路の開放(切り離し)や地絡保護に使います。波及事故防止に有効です。
GR:グランドリレー 地絡リレーのこと。
PAS:Pole Air Switch 柱上用 気中 開閉器
②零相変流器(ZCT)
電線3本を一括で取り込んで地絡電流を検出する。地絡事故発生時に、地絡時のみ流れる零相電流を取り出す変流器。地絡保護用のDGRに繋げる。詳しくは→零相変流器
ZCT:Zero-phase Current Transformer 零相 電流 変成器
③零相電圧検出装置(ZPD)
地絡事故時のみ発生する零相電圧を取り出す変成器。
ZPD:Zero-Phase Potential Device 零相 潜在的な 装置
④地絡方向継電器(DGR)
構内設備で地絡(地面に電流が流れる)が生じた時に、検出して遮断器に遮断指令を出して遮断→停電させて事故を除去する。ZCTおよびZPDと組合せ、零相電圧を基準とし、零相電流の位相を見て内部方向を判断して動作する。なお、動作値は一定以上の零相電流の大きさで動作する。零相電圧は主に位相の基準に使っている。現場ではDG(デージー)と呼んでいます。
DGR:Directional Ground Relay 地絡 方向 リレー
⑤ケーブルヘッド(CH)
高圧の電力ケーブルの立ち上げ部。電線をキュービクルへ引き込んだ所の立ち上げ部分の処理をした部分とその反対側の引き込み柱のところへ付いてます。電力ケーブルを端末処理した部分になります。
CH:Cable Heads ケーブル 頭
⑥電力需給用計器用変成器(VCT)
電力量計のための変成器。MOF(Metering Out Fit)とも言う。これは計量器用の変流器と変圧器を組み合わせ、電流と電圧を適当な大きさに変換して主回路から取り出し、電力量計へ受け渡すもの。電気料金の取引のために電力量を計量するもので、一般的に電力会社が設置(需要家の受電用)する。
VCT:Voltage and Current Transformer 電圧 電流 変成器
⑦電力量計(WH)
電力会社から受電した電力量を計量する装置。みなさんの家庭に付いているものと同じイメージです。
⑧断路器(DS)
スイッチのイメージ。ただし、電流を切れないスイッチです。単に回路を切り離すためにあります。なので断路器の開閉は、遮断器を切って電流の流れていない時しかできません。用途は、遮断器の点検を時などに開路するというような使い方があります。電圧があるだけであれば開路は可能です。電流は負荷電流でも流れているときに切るとアークが発生します(アークを切る能力がないので、電流は切れない装置です)
DS:Disconnect Switch 切る スイッチ
⑨避雷器(LA)
電線への落雷により受電設備に異常な高電圧が侵入した際に、自ら大地(接地)と接続して異常な高電圧を大地へ逃がす。もし避雷器がついていないと、異常電圧侵入時に変圧器などの機器が高電圧による破壊につながります。従って、変圧器等の機器よりも電源側へ設置します。
LA:Lightning Arrester 稲妻 避雷器
⑩計器用変圧器(VT)
変流器と同様に、電路の大きな電圧を取り出すために用います。6600V等の大きな電圧をそのまま電圧計で測るのは困難なので、小さな値に変換して取り出します。また、不足電圧継電器など電圧入力の必要な継電器にも用います。
VT:Voltage Transformer 電圧 変成器
⑪変流器(CT)
電路に流れる大きな電流を小さな値に変換して取り出す。大電流をそのままでは取り扱えないので小さくして、過電流継電器等の継電器や電流計等の計測器へ繋げる。くわしくは→変流器
Current Transformer 電流 変成器
⑫遮断器(CB)
電気の入切をするスイッチです。事故電流(短絡・地絡電流)や負荷電流(普段使っている電気)を切る事ができます。電流を切るのが仕事です。「遮断」器なので、電流を遮断することができます。ガス遮断器ならガスを吹きかけて遮断(アークを消弧)する装置となります。断路器はこういった電流を断ち切る機能がないので電流はきれません。
CB:Circuit Breaker 回路 壊す
⑬過電流継電器(OCR)
主回路の短絡を検出して遮断器に遮断指令を出して遮断→停電させて事故を除去します。短絡の場合は大電流が流れるので、過電流継電器で保護します。過電流継電器は一定以上電流が流れた時に動作する継電器です。
OCR:Over Current Relay 超えた 電流 リレー
その他の保護回路
<不足電圧継電器>
名前からも判断できますが、ある一定の値よりも電圧が低下した場合に動作して、遮断器に遮断指令を出す継電器です。
短絡や地絡時の保護するという目的ではありません。
(短絡保護リレーのフェールセーフとして使われることはあります)
図に示した不足電圧継電器の役割としては、電動機の保護です。一定以上に電動機に供給される電圧が低下すると、電動機としては回転しても電動機の出力低下等、いろいろな不具合が発生するため電圧低下時には電動機への電気の供給をストップさせる役割があります。機器保護用の不足電圧リレー(UVリレーといいます。U:アンダー、V:ボルテージです)です。
その他にも、回路の停電を検出して非常用発電機を起動するために設置したり、電路の停電を検出して知らせることに使うこともあります。
配線図問題
第1種電気工事士試験に出題される配線図問題を載せてみます。細かい勉強はたくさん必要ですがとりあえず大きい意味で違和感なくこの図面に入っていけるようになってもらえると幸いです。
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