異容量V結線(灯動共用方式)とは。(ベクトル図)

電気機器

 一般的な配電方式として柱上変圧器は容量の異なる単相変圧器2台をV結線して低圧配電しています。これは、灯動共用方式と呼び、変圧器の異容量V結線で実現します。回路(計算方法)は難しくなるものの、広く使われている方式となります。

オトーサンの為の異容量V結線講座

異容量V結線という結線があります。
V結線の変則版なのですが、これが変則的に用いられるのあれば、余り注目するに値しません。
しかし、世の中で結構用いられています。
電力会社の低圧配電は殆どこの方式と言って良いと思います。
ここでは、この結線の考え方、計算方法などを記載します。
お時間が許す限りお付き合い下さい。
尚、V結線の基本的な事項は下記に示しましたのでお読み下さい。
此処ではV結線を完全に理解している事を前提に話を進めます。
掲載サイトのURL「V結線の話

平成 鹿年 骨月 吉日
埼玉ドズニーランド大学 学長 鹿の骨

早速ですが異容量V結線の説明に入ります。
この結線は文字通り容量の異なる単相トランス2台を使って、三相電源と単相電源の両方を得る結線です。容量の大きい方のトランスを単相3線(200/100V)及び三相3線(200V)用に使用し、容量の小さい方を三相3線専用とします。
下記に基本的な結線図を示します。

ベクトル図を書いて見ましょう。
まず電圧のベクトル図です。下図(図2-A,B)になります。

特に説明は書きませんが、A図、B図どちらで書いても正解です。
A図の方が理解しやすいと思いますが、B図はN点が直接接地(B種接地)されていますので、この点を基準にしたものです。

灰色の点線で書かれたもの及びピンクの点線の部分は巻線が有りませんが、誘導される電圧を示します。電圧の値は描きませんでしたが、お解り頂けているものとします。
これに電流ベクトルを加えてベクトル図を完成させ、解析の及び計算の元とします。
電流ベクトルを描く前に回路図を描きます。

下記に回路図を示します。
具体的な負荷の容量及びトランス容量は下記のように設定しました。
高圧部分及び電圧の標記は省略しました。

前ページ図2の線間電圧ベクトル図を組み直し、新たに架空の相電圧ベクトルを加筆します。
どうしてこの様なベクトル図を書く必要が有るのかは、此処では説明しません。
三相交流のベクトル解析の基本です。詳細は「V結線の話」をお読み下さい。
結果を図4に示します。解析に関係のない電圧ベクトルは未記入です。

この電圧ベクトル図に電流ベクトルを加筆しますが、一度に全部描くと訳が解りません。
順番に描いていきます。先ずは三相の負荷電流です。
結果を下図に示します。

上図の注意書きにも書きましたが、力率角は、架空の相電圧に対する負荷電流の位相角となって出現します。線間電圧に対する位相角では有りません。
角度が解りましたので、この電流の長さを計算します。

計算式は
電流値=三相皮相電力÷√3÷線間電圧
=50kVA÷√3÷200V
=144A(Iu=IV=Iw)
となります。

次に単相負荷電流ベクトルを書きます。
下記に結果を示します。
N相電流は負荷が平衡していますので現れません。

単相電流の位相角が解りましたので、長さを計算します。
電流値=単相皮相電力÷線間電圧
=70kVA÷200V
=350A
となります。

さて、此処までで、三相負荷電流及び単相負荷電流のベクトル図が書けましたので、
今度は線電流を描きます。
最初はR線電流Ir(ドット) です。
この電流に関連する部分のみを回路図から抽出すると下図になります。

これをベクトル図に加筆すると下図になります。
電流値の縮尺を合わせて記載しました。
記載に無関係な電圧ベクトルは記載していません。

前ページのベクトル図から電流値を計算します。
このベクトル図ですが、電圧ベクトルEr(ドット) を基準に書き直すと下図になります。

同様な手法で今度はIs(ドット) を求めます。
この電流に関連する部分のみを回路図から抽出すると下図になります。

ではこの電流ベクトルを電圧ベクトルに重ねて描いて見ましょう。
結果を下図に示します。

ナンジャコリャと思った方はベクトル演算の基礎をもう一度勉強してください。
機会があればその内ベクトル演算の解説書を作ろうかとも思いますが、
今回はなるからなるとしてください。

次はIt(ドット) です。
同様に回路図の該当部分を抽出すると下図になります。

ベクトル図を描くと下図になります。

これで全部の電流値が解りましたので、電圧ベクトルに加筆したものを次ページに示します。

ベクトルを全部描きました。
図がゴチャゴチャで何が何だか良く解らない感じですが、結果はこんなものです。

これで「良かった良かったシャンシャン。」では有りません。こういう風になるように最初から仕組んでいるのでこうなっただけです。

実務では次のような問題を解決する様な場面に出くわします。
「単相容量がP1[kVA]、三相容量がP3[kVA]有る。この容量に電源を供給するトランス容量は幾つか?」と言った感じです。

この時に、単相トランスP1[kVA]以上、三相トランスP3[kVA]以上のものをそれぞれ持ってくると言う解決方法も有ります。この方法が一般的です。しかし、此処では異容量V結線の話ですので、この手は使わないとします。

ここで、丼勘定で次の様な計算をして見ます。
共用相トランス容量=(P1+P3/√3)の直近上位値のトランス。
専用トランス容量=P3/√3の直近上位値のトランス。
今回の例で計算して見ましょう。
共用相トランス容量=(P1+P3/√3)の直近上位値のトランス。
=(70+50/√3) の直近上位値のトランス。
=(70+28.87) の直近上位値のトランス。
=98.87の直近上位値のトランス。==>100kVAを選択。
98.87kVAの電流値を単純計算すると
電流値=98.87kVA÷200V=494.3A となります。
今回の詳細な計算値は 427.6A、丼勘定の計算が 494.3Aです。
約1.15倍程度丼勘定の方が大きくなります。

この値が「誤差が大きすぎる。」と見るか、「見当を付けるには十分な値である。」と見るかは微妙なところです。

尚、負荷の力率がどの様に変化しても実際にトランスに流れる電流は、絶対にこの丼勘定の値を超える事は有りません。
負荷の力率が変化したときに、この最大値になります。
次ページに説明を記載します。

かなり特殊な条件(三相負荷が進み力率)ですが、全くあり得ない数値では有りません。
つまり、この丼勘定の計算は十分実用になる計算と思われます。
(トランス容量を設定する時点で負荷の力率が解らない事が多い。)
「共用相トランス容量=(P1+P3/√3)の直近上位値のトランス。」となります。
次に専用トランスの容量に関して記載します。
この容量の設定は単純です。
三相容量(kVA値)の1/√3以上の容量が必要です。
三相負荷の力率に無関係です。(kVA値が決まった場合。)
(実は裏技が有る。)

今度は電線の太さの話です。
トランス容量が正しくても電線太さが適正でなければ電気は送れません。
下図の様な場合を想定して検討をします。

この値で注意して頂きたいのは、Is の値 493.1Aです。
この値は、普通にあり得る力率で計算したときの最大電流値です。
つまり、「普通に計算すると、トランスに流れる電流よりも大きな電流が流れる電線が有る。」と言う事です。
図12(6ページ)を見ると解るのですが、単相電流と三相電流の位相角が非常に近いためにこの様な事が起
きます。
この電流値と、丼勘定の計算をした共用相トランス電流を比べると、この電流の方が小さい値です。
この場合でも、単相電流と三相電流が重なった場合が最大値になります。
つまり、電線に流れる電流の最大値は丼勘定の値と等しいと見なしても事実上、実際の値と同じと扱えます。
ですから、「電線の電流は(単相容量KVA値/200+三相容量kVA値/200・√3)A以上のものと
する。」となります。
これで終わりか・・・・NO! まだ有る。・・・ゲェ~
低圧の電線太さを決める要素は大きく言って2つ有ります。
1.負荷電流が電線の許容電流を超えない事。
2.電圧降下が許容範囲に収まる事。
以上の2点です。
許容電流の検討は上記の内容で十分です。
電圧降下の計算は結構厄介です。
此処では、「土建屋式簡単計算」の方法で計算します。
(△V=√3(RCOSθ+XSINθ)の式(三相の場合)は使いません。)
次の式を使います。

図18でこう長が20mだった場合で計算して見ましょう。

内線規定の規定に従い、この部分も電圧降下の計算に入れる必要が有ります。
仮にこの部分の許容電圧降下を0.5%と設定します。
使う式は、1番の単相2線式の式です。

許容電圧降下のV値は200×0.5%=1Vです。
電流値は、丼勘定で計算した電流値=494.3A を使います。
必要とされる電線太さ=35.6×20×494.3/1000/1
=351.94mm2 以上 従って 400mm2を選択します。

許容電流の方で検討すると・・・。
配線方法は地中配管で、CVQケーブルを使用したものとします。
CVQケーブルの3導体通電の許容電流はCVTと同じです。

内線規定760ページのCV単心3個より1条の表中で325mm2 の許容電流475Aを得る。
761ページの基底温度による電流補正係数1.14を得る。
これをかけ算して、475A×1.14倍=541.5Aを得る。
つまり325mm2 でOKです。

2つの値を検討して太い方を選択します。
今回は、電圧降下の方の値で決定され、400mm2 となりました。
尚、配電盤以降の計算等は普通の単相3線、三相3線の計算と同じです。

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